ナースプラクティショナーとは、保健師助産師看護師法が定める特定行為が可能な看護師のことです。
診療看護師とも呼ばれ、まだまだ認知度は低いものの、年々現役看護師の中でも注目を集めるようになってきました。
そこでここでは、日本におけるナースプラクティショナーの役割や活躍の実態についてご紹介します。
1.ナースプラクティショナーの概要

ナースプラクティショナーは、特定行為に関連する看護師の研修制度を修了していることが条件となります。
現在「ナースプラクティショナー」という法律上認められた資格はありませんが、日本NP教育大学院協議会という団体がナースプラクティショナーの認定試験・資格授与の仕組みを独自に設けています。
正式名称や担う役割も現時点ではっきり決まっていない
諸関係者の尽力のもと、日本国内で初めてナースプラクティショナーの研修制度が設けられたのが2008年とまだ新しく、正式名称や担う役割も現時点ではっきり決まっていません。
現在、法律でも看護師判断で処方を含めた医療行為を行うことはできず、医師の指示のもと医療行為の補助を行うというところに留まっています。
ポイント!

日本看護協会は2017年度事業として、医師の指示を受けずに一定レベルの診断や治療を行うナースプラクティショナーの資格制度作成を検討しており、今後も名称や役割が変わってくる可能性があります。
ナースプラクティショナーができること
現在(2017年)、厚生労働省では特定行為(ナースプラクティショナーが可能な行為)を以下のように定めています。
- 経口用気管チューブ・経鼻気管チューブの位置調整
- 気管カニューレ交換
- 人工呼吸器における陽圧換気の設定変更・離脱
- 人工呼吸器下患者への鎮静薬投与量の調整
- 一時的ペースメーカーの管理・抜去
- 経費的心配補助装置の管理
- 大動脈内バルーンパンピングからの離脱のための補助の頻度調整
- 胸腔ドレーン吸引器圧調整、抜去
- 胃瘻・腸瘻・膀胱瘻カテーテル、胃瘻ボタンの交換
- 心嚢ドレーン・中心静脈カテーテル抜去
- 末梢留置型中心静脈カテーテル挿入
- 褥瘡等の壊死組織除去
- 創傷ドレーン挿入・管理
- 動脈採血・橈骨動脈ライン確保
- 血液透析器・濾過器管理
- 高カロリー輸液を含めた輸液投与量調整
- 脱水に対する輸液補正
- 感染症への薬剤投与
- インスリン投与量調整
- 硬膜外カテーテル鎮痛薬投与
- 持続点滴中の薬剤投与量調整(カテコラミン・Na・K・Cl・降圧剤・利尿剤)
- 薬剤臨時投与(抗痙攣剤、抗精神病薬、抗不安薬)
- 抗がん剤血管外漏出時の局注
以上を参照してみると、急性期から慢性期、病院・施設・在宅と幅広く一般的な医療処置をカバーしていることがわかります。
補足説明!

全てのナースプラクティショナーが上記全ての項目について修得するような学習プログラムにはなっていません。
上記項目は21個の領域に分類されますが、各々が自分の修得する領域を決めてナースプラクティショナーとなるため、受講した専門領域により実施できる行為が変わってきます。
2.現在の日本におけるナースプラクティショナーの実態

臨床における看護師の追加資格として、主に専門看護師(CNS: Certified Nurse Specialist)、認定看護師(CN: Certified Nurse)等があります。
現在その動きに追加されつつあるのがナースプラクティショナー(NP: Nurse Practitioner)です。
ここでは、日本におけるナースプラクティショナーの実態についてご説明します。
専門・認定看護師とナースプラクティショナーの違い
専門看護師とナースプラクティショナーの住み分けについてはよく議論されるトピックです。
他国の多くの例でみられるNPは処方権を持ち、医療行為の一部を担い、より医師に近い働きをするため看護師の範疇を超えています。
しかし現時点での日本のナースプラクティショナーの場合、看護師の範疇におさまり、臨床のエキスパートである認定看護師の役割により近い役割を果たすことが多いようです。
臨床における特定の分野についての医学的知識に秀でた看護師といえそうです。
日本のナースプラクティショナーに求められること
日本におけるナースプラクティショナーは、急速に高齢化していく社会を支えるために必要な要員であり、「看護に関する高度な思考力・判断力、実践力を備えた自律した看護師」(日本NP教育大学院協議会)と定義されます。
そのため、日本のナースプラクティショナーに特徴的な役割は、現時点で処方はしないものの医療行為の一部を担い、医師の負担軽減を通して、急速に増えていく患者数に対し医療の質を落とさないような働きをすることでしょう。
ナースプラクティショナーにおける日本が抱えるジレンマ
医療行為が認められていない現在の日本のナースプラクティショナーにおいて、医師の負担軽減をすることが大事な役割です。
しかし、質を重視しすぎてハードルを高く設定するとナースプラクティショナーの数は増えず、ハードルを低くしすぎると質が落ち本来期待したような効果が得られないというジレンマに陥る可能性があります。
- 日本の社会的背景からどんなナースプラクティショナーがどのくらい必要なのか
- どう教育して質を担保するか
以上の主な2点が、日本におけるナースプラクティショナーを考えるうえで大事なポイントとなってくるでしょう。
現在日本のナースプラクティショナーはどのように活躍しているのか
制度開始後2年間で、2017年3月末までに特定行為研修を修了した看護師は583名にのぼります。
ナースプラクティショナーが多く活躍している分野や病院は以下の通りです。
多い分野 | ・栄養・水分輸液関連 ・創傷管理関連 ・呼吸器関連 ・血糖コントロール関連 ・精神・神経症状薬剤関連 |
活躍の場 | 病棟、外来、在宅、施設と幅広い 認定看護師兼ナースプラクティショナーとして活躍する看護師もいる |
活躍する病院 | 国立病院機構、大学病院、公立病院、社団法人、医療法人等幅広い |
急性期ケアや外来診察を担当しているナースプラクティショナーもいます。(参考文献リンク先参照)
3.今後の日本におけるナースプラクティショナーの活かされ方

このまま制度が変わらなければ、日本のナースプラクティショナーは看護師として医師の指示のもと、ある特定分野における臨床看護のエキスパートとして医療行為を実施していくことになるでしょう。
今後、日本看護協会が2017年度に予定しているような計画がみのり、看護師でありながら独自の判断で医療行為を行えるようになればより諸外国のNPに近いような存在になっていくことと考えられます。
ポイント!

特に医師不足がみられる地域、分野では活躍の場が増えてくることでしょう。
まとめ
- 一般社団法人 日本NP教育大学院協議会
- 厚生労働省 特定行為とは
- 日本看護協会 看護実践情報
- 日本看護協会 看護実践情報 活動事例
- 日本看護協会 看護職の役割拡大の推進と人材育成
- 花山美帆 JNP (Japanese Nurse Practitioner:診療看護師)活動報告
ナースプラクティショナーはまだ新しい分野ですが、日本の社会的背景と諸外国の動きが主な要因となり発生した動きです。
臨床において、看護師としての医学・薬学的な知識不足に歯がゆい思いをしている方にとってはひとつの解決方法になるでしょう。
今後裁量権拡大等、担う役割も変わってくる可能性があり、急速に増えていく患者数に対処するために大事な役割を担うことができます。
コメントを残す