看護師になるために欠かせない看護実習。そして、看護師の仕事の中で最も大変とも言えるのが、学生の指導です。ひとりひとり個性のある学生に対して、どのような指導者であるべきなのかを考えながら、いずれは同じ看護師として働くことになる学生の指導に奮闘する方もいるでしょう。
それと同時に、いい看護師になって欲しいという願いもあります。そんな思いが伝わり、学生の成長につながる良い看護実習にするためには、指導者として学生とどのような関わりをしたら良いのでしょうか。
1. 高校上がりの学生と社会経験のある学生の違い

最近は資格を保有していることが就職に有利であることもあり、国家資格である看護師の資格を取得しようとする方が増えてきました。そのため、看護師になるために社会人受験をする方も多く見られるようになりました。
高校を卒業して、看護系の学校に入学した学生と社会経験を経て入学した学生では、社会経験を通して学んできたマナーや人との関わり方、学習や実習に対するやる気などに違いがみられます。
社会経験のある学生
私が実習指導で感じた学生の特徴は、社会経験がある学生は、マナーができており学習やコミュニケーションを努力している様子がうかがえます。
価値観が出来上がっているため、指導をしてもなかなか変化がみられない
反面、自分のやり方や考え方、価値観などが出来上がっているため、それを簡単に変えることができないのです。そのため、自分の意見を大きく主張したり、時に反発してくる学生もおり、指導してもなかなか変化がみられないという学生が多いように感じました。
高校上がりの学生
高校を卒業したばかりの学生は社会人になるための基礎が不十分でマナーから指導しなければならないことも多い代わりに、感情表現や考え方がまっすぐで素直であり、指導内容や周囲のさまざまな刺激を受け入れやすいため変化が目に見えてあらわれやすいように感じました。
2. 相談できる指導者が必要

社会経験があるか、ないかによる違いもそうですが、学生ひとりひとりに個性があり、厳しく指導しないと伝わらない学生もいれば、少し指導しただけで実習に来なくなってしまう学生もおり、力の入れ具合が大変難しいのです。
私の病院では、実習前に実習担当教員と打ち合わせがあり、学生ごとに大まかな性格や注意点が知らされます。しかし、やはり本人を前にしなければわからないことが多く、初日から頭を悩ませることばかりです。
優しい指導者をアピールする方がいい
そんなときは、学生の立場になって考えてみると良いです。学生は実習に関してだけでなく、私たち指導者に対しても怖い人なのか、厳しい人なのか、自分を理解してもらえるのかといろいろな思いを抱えて緊張しています。
ここで、優しいところを見せてしまうと学生は適度に手を抜くのではないかと思われがちですが、実は学生が安心できるよう適度に優しい指導者をアピールした方が良いのです。
厳しく接すると逆効果となってしまうことも
怖い印象を与えてしまうと、学生が一歩引いた関わりしかできず怒られないこと、指導されないことが目標になってしまうのです。
看護師の中には、いずれ看護師という厳しい世界に入ることになるのだから、厳しさは当然であり、それに負けているようではいけないと言われてきた世代もいます。
しかし、最近の学生にはその厳しさが逆効果となってしまうのです。ゆとり世代を理由にして良いのかは迷うところではありますが、その世代に合わせて指導方法も変容させていかなければなりません。
実習を合格することが最終的な目標ではありますが、本来の実習目標は自分がどのような考えの下で、どのような看護を展開していくことが患者さんにとって良い利益を与えられるのか。
また、そのために他の看護師や他職種とどのように関わると良いのかに気づき、学ぶことです。学生が患者さんを通して、それらの多くのことを学ぶためには指導者との良い関係性が重要なのです。
ポイント!

迷っているとき、困ったことがあったときに“学生の方から相談しやすい指導者”であることが大切です。学生にとって、一番身近にいる指導者は“手本であり、理想”でもあります。その指導者と良い関係性ができているからこそ、指導されたことを受け入れやすくなり、それが学生の成長につながるのです。
3. 毎朝のひと言で学生の1日が大きく変わる

みなさんは、自分が学生のとき、どのような思いで実習先に向かっていたか覚えていますか?「今日はいける気がする!」と意気込んで言ったら、開始5分で指導者のひと言に落ち込んだり、実習に行きたくなくて体調が悪くなったという経験がある方も少なくないと思います。
まずは褒めて毎日実習に来させることが大事
頑張って実習に来た学生をまずは褒めることが大切です。
実習は座学では得られない学びがたくさんあるため、まずは毎日実習に来ることが大事であり、そこで諦めてしまっては学べるものも逃してしまいます。そのため、私は毎朝必ず学生ひとりひとりに“今日もよく頑張ってここに来たね”と声をかけます。
一言褒めるだけで、学生の様子や実習への姿勢を把握できる
笑顔になる学生もいれば、緊張が解けてホッとするのか泣いてしまう学生もいますが、このひと言で、それぞれが困っているのか、楽しんでいるのかなど、どのような思いで実習に向かっているのかを知ることができるのです。
1回の実習ごとに、だいたい5~6人ほどの学生を指導するため、正直、毎日平等に時間をかけて指導することは難しいです。しかし、朝の段階で学生の様子や実習への姿勢を把握することができると、どの生徒に指導が必要なのかを判断することができます。
学生のモチベーションを高め背中を押すことが大切
指導のあと、学習を深めたり仲間に相談するなどして、自分なりの方法で克服できているのかということも感じることができるため、実習を重ねるごとに少しずつ成長していく姿を見ることができます。
そして、そのことを学生に伝えることにより学生のモチベーションを高めることができ、結果的に患者さんにとって良い看護を提供するという実習目標を達成することができるのです。
ポイント!

このような関わりをしながら、学生がその場で立ち止まってしまわないよう背中を押すことが指導者の大切な役割です。
4. 学生の「わからない」を一緒に考えよう

実習の3週間は、長いようで短いものです。その中で、学生が良いモチベーションを維持しながら実習の成果を得るためには関わり方と同じくらい指導の方法も重要です。
学生が前日に指導したことを、翌日になっても学習していないということはよくあります。それが、怠けであれば学習が終わるまで実習に参加させないという指導は有効かもしれません。
しかし、「なぜやっていないのか」という指摘に対して、「わからなかった」という学生に同じように指導をしても学生のモチベーションを下げてしまうだけです。
学生の立場になって指導することが大切
知識や技術は、看護師になって先輩から学んだり、実際の看護を通して学ぶ機会がたくさんあります。そのため、実習の中ではわからないことを“一緒に考える”ことが大切です。
このとき、少しずつ答えに導くよう質問をしたり、資料のどの辺りに書いてあるのか、なぜその知識が必要なのかも一緒に考えていくことによって、学生は学習の方法や必要性を学ぶことができます。
また、指導者がすべての内容を理解していなければならないわけではありません。学生が疑問に思っていることを、知らない場合もたくさんあります。そのことを隠しておくのではなく、あえて「私もわからないから一緒に考えよう」という言葉をかけることによって、学生との距離が近づき看護師だからといってすべてのことが完璧にできるわけではないという学生の安心にもつながるのです。
ポイント!

実習中のこのような経験が、今後の実習や看護師になってからも疑問をそのままにせず解決していくことの大切さを知り、自ら学ぶことができるという強みとなるのです。
まとめ
看護師という仕事は、人間関係も仕事内容もハードで大変な仕事です。だからこそ、以前は学生時代から厳しさに耐えられるような指導をおこなっていました。しかし、ゆとり世代といわれる今の学生に対しても、同じように効果のある指導法とはいえません。
患者さんへの看護と同じように、学生指導もその世代と学生ひとりひとりに合わせた変容が必要です。そして、今の学生に必要なのは看護師の手本となる指導者に、必要なときに自ら相談できる環境で、実習をやり遂げられるよう背中を押す声かけと自ら学ぶ方法を指導することです。
そのような指導の下で学生を育てていくことにより、学生は患者さんに対してひたむきに考えることのできる看護師となり、思いやりのある良い看護につながるのです。
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