緩和ケアの重要性が広まるにつれて、緩和ケア病棟(ホスピス)を併設する病院が全国に増えており、それに伴って緩和ケアを専門とする看護師も増加しています。
緩和ケアとは、がんでターミナルステージの患者が積極的治療をせず、症状緩和をしながら自分らしく療養する場所です。
終末期の患者の痛みを和らげる治療を行う緩和ケア病棟では、肉体的痛みそのものだけでなく、精神的なサポート、時にはご家族へのメンタルフォローも必要とされます。
最期の時を、満足できる状態で迎えられるようにサポートすることが看護師の仕事になります。
そのため、緩和ケア病棟で働く看護師にはかなり高度な「看護」が求められますが、その一方で医療面でも精神面でも他の診療科にはない「やりがい」があり、それを求めて転職を希望する看護師も多い傾向にあります。
ここでは、緩和ケア病棟に転職を考える看護師に向けてメリット・デメリット、一般病棟との違い、求人を探す注意点についてまとめて紹介していきます。
1.緩和ケア病棟で働く看護師のスケジュールと仕事とは
2.緩和ケア病棟と一般病棟の違いについて
3.緩和ケア病棟へ転職する看護師に必要なスキル
4.緩和ケア病棟へ転職する看護師のメリット
5.緩和ケア病棟へ転職する看護師のデメリット
6.緩和ケア病棟への看護師求人を探す注意点
まとめ
1.緩和ケア病棟(ホスピス)で働く看護師の仕事スケジュール

緩和ケア病棟(ホスピス)で働く看護師は、通常の病棟勤務の看護師とスケジュールはそこまで変わりません。
緩和ケア病棟で働く看護師の1日のスケジュールを、3交代制「日勤」「準夜」「深夜」に分けて説明していきます。
(1)「日勤」の緩和ケア病棟スケジュール
【時間】 | 【仕事内容】 |
08:30~ | 申し送り |
08:45~ | 環境整備、担当患者に挨拶 |
09:00~ | バイタル測定、状態観察 |
10:00~ | 処置、あれば点滴 |
11:30~ | 昼食配膳、食事介助 |
12:00~ | 下膳 |
12:15~ | 昼休憩 |
13:15~ | カンファレンス |
14:00~ | 患者訪問、状態観察、処置、入浴介助 |
16:00~ | 記録 |
16:45~ | 申し送り |
17:15~ | 日勤業務終了 |
朝、夜勤からの申し送りを全員で聞いた後、それぞれ担当患者のところに行くのですが、日勤の看護師1人が担当するのは多くても(一般的に)患者3人になります。
さらに、検査や点滴などの処置もほとんどないため、緩和ケア病棟で働く看護師は、患者とじっくりと関わることができるといえます。
また、日勤業務終了は、およそ17時ぐらいとなります。
(2)「準夜」の緩和ケア病棟スケジュール
【時間】 | 【仕事内容】 |
01:15~ | 準夜勤常備薬チェック、担当患者挨拶 |
02:00~ | 夕食配膳、食事介助 |
02:30~ | 下膳 |
03:00~ | 洗面介助 |
19:00~ | バイタル測定、状態観察 |
20:00~ | 処置、あれば点滴 |
21:00~ | 休憩 |
22:00~ | 巡室、消灯 |
22:30~ | 記録 |
00:00~ | 巡室 |
00:30~ | 申し送り |
01:15~ | 準夜業務終了 |
(3)「深夜」の緩和ケア病棟スケジュール
【時間】 | 【仕事内容】 |
01:15~ | 深夜勤常備薬チェック |
02:00~ | 巡室 |
02:30~ | 当日分注射確認 |
03:00~ | 休憩 |
04:00~ | 巡室 |
04:30~ | 指示切れ確認、当日検査確認など |
05:30~ | 記録 |
06:00~ | バイタル測定、担当患者挨拶 |
07:00~ | 処置 |
07:45~ | 朝食配膳、食事介助 |
08:15~ | 下膳、洗面介助 |
08:30~ | 申し送り |
09:00~ | 記録 |
09:30~ | 深夜業務終了 |
緩和ケア病棟だからと言って病棟勤務と特別にスケジュールが変わるわけではありません。2交代でも通常の病棟勤務の看護師と一緒になります。
(1)患者への看護師の仕事内容について
カルテの情報と夜勤からの情報を元に、
- 全身状態
- 体の痛み
- 嘔気の程度
- 便通の状態把握(モルヒネ利用者のみ)
などを把握し、痛み止めの効き方に不都合があれば投与量や回数を、医師へ看護師が相談します。
また、患者の希望があれば屋上庭園の散歩や売店での買い物、入浴なども看護師の仕事となります。
(2)亡くなった時のエンゼルケアも仕事の1つ
患者が亡くなった際のエンゼルケアも、もちろん緩和ケア病棟で働く看護師の仕事となります。
エンゼルケアのあと、その服を着せ、希望されるご家族には一緒にエンゼルメイクをし、お見送りになります。
補足説明!

エンゼルケアでは事前にご家族に、本人が一番気に入っていた服を準備しておいてもらい、お気に入りのワンピース、スーツ、中には着物などを着せます。
2.緩和ケア病棟と一般病棟の違いについて

私は内科系病棟で働いた後、緩和ケア病棟に配置換えになりました。
初めて足を踏み入れる緩和ケア病棟はとても静かで、これまで働いていた慌ただしい一般病棟とは全く別の空間でした。
さらにそこでは一般病棟では考えられないようなことが許可されていたり、これまで当たり前だと思っていたことが非常識なこととして扱われていました。
私の体験談から、緩和ケア病棟は一般病棟とどのような違いがあるのかお伝えしていきます。
(1)緩和ケア病棟の環境について

緩和ケア病棟に入ると、その静けさに圧倒されます。まず床に毛足の短いカーペットが敷き詰められているのです。病室だけでなく廊下も一面カーペット敷きで、ナースステーション、処置室、トイレ、浴室以外はワゴンを押して歩いても音がしないようになっていました。
ホテルのような病室
緩和ケア病棟の壁には絵画がいたるところに掛けられており、その絵画も色の濃いダイナミックなものではなく、淡い水彩でやさしい雰囲気のものばかりでした。
病室は木製の家具調のベッド、ソファ、チェスト、テーブルセットが置かれ、さながらホテルのような雰囲気でした。カーテンは厚手の遮光性で金属製のブラインドとは違います。
なにより病棟としては最上階に位置しており、眺めは最高でした。
寝たまま入れるリフトバスがあった
ターミナルとはいっても、身の回りのことは自分で出来るレベルの患者もいます。ADLが自立した患者がお風呂に入る時は、大浴場を自立または見守りで利用します。倦怠感や痛みがあり、一人で入浴出来ない患者は寝たまま入れるリフトバスを利用していました。
ボランティアさんによるサービス
私の病院の緩和ケア病棟には患者のレクリエーションやリフレッシュ活動のためのボランティアさんが出入りしていました。その方達が用意してくださる病室や廊下の花や季節の飾り付けは、私たち看護師の目も楽しませくれました。女性患者の中にはボランティアさんと一緒にお茶や飾り付けの準備を楽しむ方もいました。
(2):看護師と患者との距離

これまでの一般病棟で看護師と患者はきっちり線引きされていたのに対して、患者とご家族との付き合いが深くなってくると、まるで看護師も医療者と家族の中間に位置するような感覚がありました。
担当患者は家族に近い存在になる
普通の医療者よりもより患者に近い存在に思えることで、より親身になって看護することができたように思います。自分の勤務時間外に受け持ち患者が亡くなれば、病棟から連絡をもらってお見送りに駆けつけることもありました。
『数字ではなく様子で判断する』
一般病棟では状態が悪くなると頻回にバイタルサインを測定し、患者の状態を把握しようとします。しかし積極的治療をせず、患者の苦痛を最大限取り除く緩和ケアでは頻回な血圧測定は行いません。各勤務1回測定すれば良い方で、あくまでも数字以外の兆候で判断します。
食事を食べられなくなっても、本人や家族が望まなければ輸液もしない場合もあります。
最期を迎える時も、モニター類は付けず、そばについていた家族から呼吸が止まった報告を受けて看護師が部屋に赴くことが多いです。
患者ケアと同じくらい家族ケアが大切
死期が近づき、患者とコミュニケーションを取るのが難しくなってくると、今度は家族との関わりが深くなってきます。旦那様や奥様、子供さん達は大切な人の死という問題に直面しています。
これまでの歩みと苦労をねぎらい、少しでも心穏やかにその時を迎えられるよう援助します。やれることは全てやりきったという達成感が、喪失のあとの立ち直りに非常に重要だからです。
ポイント!

こうした関わりのせいか、病棟には死亡退院された患者のご家族から、お礼の手紙やお菓子などが絶えることなく届いていました。
(3):緩和ケア病棟のみに許可された驚くべき事

緩和ケア病棟では一般の病棟では考えられない、驚くべき事が許可されていました。ここでは、その一部をご紹介します。
たばこ、お酒、ペットの面会もOK?
なんと、緩和ケア病棟の患者には特例で、たばこやお酒が許可される場合がありました。患者の希望が強く、身体的に影響がなく、周囲への悪影響もないと判断され、医師の許可と病院長、事務長の許可があった場合のみです。
『お酒とたばこはナースステーションで管理』
お酒とたばこ、ライターはナースステーションで管理し、一日に決まった量と回数のみ看護師の見守り下で摂取出来ます。患者の「あー、うまいなぁー」という嬉しそうな表情は忘れることが出来ません。
『ペットは職員エレベーターで病室まで運ぶ』
犬や猫などのペットに会いたいと言う患者がいます。もう退院することが出来ない患者にとって、ペットに会えることはどんなに嬉しいことでしょう。よく一般病棟の患者でも病院の入り口まで家族にペットを連れてきてもらい、屋外で会っている人もいました。
緩和ケア病棟ではケージに入れて毛布などでくるみ、一般患者の目に触れないよう、職員エレベーターで病室まで運びます。もちろん病院内に動物を持ち込むわけですから、事前の手続きと上層部の許可が必要です。
ポイント!

緩和ケア病棟では、一般病棟では考えられないような特別な措置がされることがあります。
違いのまとめ
一般病棟にくらべて緩和ケア病棟で働いた経験がある看護師は少ないと思います。多くの看護師にとって緩和ケアは未開の地です。私が緩和ケア病棟で働いたのはわずか2年余りです。
妊娠出産を機に現場を離れましたが、あのゆったりとした空間の中で患者、ご家族とじっくり向き合ったことは、バタバタした一般病棟とはまた違った看護の良さを感じることができた経験でした。
緩和ケアに興味のある看護師さんに、まずは病棟の雰囲気が伝われば幸いです。
3.緩和ケア病棟へ転職する看護師に必要なスキル

緩和ケア病棟では、医療用麻酔で癌の痛みを軽減し、可能な範囲で患者の希望を取り入れ最期の最後までその人らしくいられるようサポートしていきます。
このように、看護師は患者とその家族に近い立場で患者の状態を常に把握し、適切な処置を行うと同時に必要があれば医師やカウンセラーなどと連携して緩和ケアを進行していきます。
現在は緩和ケアについての認定看護師、専門看護師の制度も整い、その重要性からこうした資格を目指す看護師も多くなりました。
認定看護師、専門看護師の資格の一覧は上記を参考にしてください。
(1)癌患者の疼痛コントロールに関する知識・技術
緩和ケア病棟では積極的な治療は行わず、モルヒネなどの麻薬を使用した疼痛コントロールをメインに行います。
そのため、緩和ケア病棟へ転職するのであれば、そうした薬に関する知識はもちろんのこと、終末期を迎えた患者の「全人的な痛み」に対応できるスキルも身に付けておく必要があります。
(2)患者が求めているケアを考える力
緩和ケア病棟に勤務する看護師に必要なのは、患者をサポートする姿勢です。死に直面した患者や家族との接し方はとても難しく、絶対的な正解というものはありません。
そのため、日頃から患者が何を望んでいて、それに沿うためにどんなケアが必要かを考えていく力を培っておくことが求められます。
ポイント!

患者本人はもちろん、家族が精神的に不安定になることもあるので、その点もしっかりとフォローする必要があります。
4.緩和ケア病棟へ転職する看護師のメリット

緩和ケア病棟へ転職する看護師のメリットは、まず、当たり前ですが緩和ケアについてのスキルが身につくということです。
専門的なスキルを紹介する勉強会なども各地で開かれていますが、やはり日々のケアを実践する現場で働くのとは違います。
また、緩和ケアへ転職するにあたり、以下のようなメリットも考えられます。
理想の看護が実現できる場所かも
看護師を志した時は誰しも「理想の看護」を掲げていたことでしょう。しかし実際の医療現場では業務に追われて、落ち着いた看護ができるところはほとんどなかったかもしれません。
緩和ケア病棟は患者としっかり心を通わせて、その要望に応えることが大切な業務になるので、あなたの理想の看護が実現できる場所かもしれません。
家族の方から感謝されることも多い
患者が最期の時を迎えるというつらい瞬間はありますし、心が通っていればいるほど看護師としてもつらいのは確かですが、穏やかな時を過ごせることで、最期には患者の家族にも感謝されることが多いのです。
チーム医療が学べる機会が多い
緩和ケアの特徴として、チーム医療を行うという点があります。医師や看護師、薬剤師、またソーシャルワーカー、そしてカウンセラーなどがチームとなって、患者の痛みや不安を取り除くために尽力するのです。
そのため看護師もそういった専門性の高い人たちと一緒に仕事をする機会が増え、スキルを高めるのに役立ちます。
5.緩和ケア病棟へ転職する看護師のデメリット

緩和ケア病棟へ転職する看護師のデメリットは、精神的にストレスになりやすいということが挙げられます。他の病棟に比べて、どうしても死に直面することが多い病棟です。
しかも、末期になるとそれを前提としたサポートをする機会も増えてきます。
緩和ケア病棟は、他の病棟に比べて患者とコミュニケーションを取る機会が多いだけに、個人的な距離も近くなる傾向があり、実際に亡くなったときには辛いと感じる看護師も多いのです。
仕方のないことではありますが、転職してきた看護師にとってはその克服が大きな課題でもあります。
患者の精神的サポートが難しい
患者に対して医療面、身体面での緩和ケアを行うのは、ある意味難しくはないのですが、本当に難しいのは精神的なサポートです。
患者やその家族に対してどのような接し方をすべきなのかということは、緩和ケア病棟に配属された看護師のほとんどが悩むところであり、それを失敗して患者を不用意に傷つけてしまったり、家族を怒らせてしまったりというトラブルも起こります。
相手によって接し方の正解が違うのも、難しいところです。
ベテラン看護師であればある程度距離感も掴みやすいのでしょうが、看護経験も人生経験も浅い転職してきたばかりの看護師にとってはかなり難易度が高い問題だと言えるでしょう。
ポイント!

悩みながら経験を積んでいくにつれて、次第にそのスキルも身についていくもの。簡単ではありませんが、看護師としてこうしたスキルは非常に重要であり、別の病棟に行っても役に立ちます。
6.緩和ケア病棟への看護師求人を探す注意点

最後に、緩和ケア病棟の求人を探す際にどのような点に注意したらよいのか、まとめていきます。
(1)看護師専門の求人サイトを利用し病院をピックアップする
緩和ケア病棟の看護師求人は単体では募集してるケースが非常にまれな求人となります。
そのため、緩和ケア病棟がある病院をピックアップし、転職時に病院側と希望の病棟に配属されるように交渉する必要があります。
病院のピックアップと、希望の診療科への配属の交渉を看護師専門の求人サイトを活用することで、第三者に依頼することが出来ます。
面接・見学前に詳しい情報を知ることは難しい?
緩和ケア病棟の場合、業務の状況などについて事前に確認することは困難な可能性が高く、看護師求人サイトを利用して情報収集することをお勧めします。
ポイント!

事前に詳しい情報を知るのは、転職を成功させる第一歩です。そのため、必ず面接前に見学や、直接話を聞く機会を取ってもらいましょう。自身が緩和ケア病棟で勤務することに興味があることを病院側に伝えれば、大抵は快く答えてくれるはずです。
また、看護師求人サイトを利用すれば、担当者がセッティングしてくれます。
(2)転職しても緩和ケア病棟へはすぐに配属されない場合が多い
緩和ケア病棟は、配属を希望しても、入職と同時に配属されない場合が多いです。
緩和ケア病棟は、一般病棟より繊細なケアが求められる場面が多く、入職後まずは就業状況の様子を見るために一般病棟に配属され、その後タイミングを見て緩和ケア病棟に移動という方法をとっている病院が多いからです。
1年程度の待機時間があることは覚悟しておく
緩和ケア病棟経験者の場合は入職と同時に配属される場合もあるようですが、長い場合1年程度の待機時間があることもあらかじめ覚悟しておいたほうが良いでしょう。
(3)面接・見学の際に確認すべき3つのこと
面接や見学の際には以下の3つの点について確認し、自分に合った環境であるのかを見極めていくようにしましょう。
(1)病床数と配置人数
緩和ケア病棟は、身体的なケアだけでなく精神面・スピリチュアル面のケアや家族ケアも重要であり、時間に追われる感覚になる場合もあります。
そのため、各勤務の受け持ち人数や業務の流れなどを確認し、一日の流れをイメージできていると良いでしょう。
(2)グリーフケアにどの程度積極的に関わっているのか
死後の家族に対するケア(グリーフケア)に力を入れている病院もあり、その場合は(時間外でも)定期的に手紙や電話で連絡を取る場合もあります。
ご自身の働き方として、どの程度対応することが可能か見極めるためにも、必ず確認を入れるようにしましょう。
(3)土日祝日の出勤回数
緩和ケア病棟は、そもそも看護師の全体数は少なく、結果的に夜勤回数や土日祝日の出勤が多くなる可能性が高いので注意が必要です。
もし、夜勤や土日祝日の出勤回数に限度がある方は、事前に条件を確認しておいたほうが良いでしょう。
まとめ
緩和ケア病棟へ転職を考える看護師は以下のポイントをおさえておきましょう。
- 緩和ケア病棟では最期の最後までその人らしくいられるようサポートする
- 疼痛コントロールのスキルが必要
- チーム医療を学べる機会が多い
- 緩和ケアの求人は稀である
- 病院に入職してからも1年程度は緩和ケアへ異動できない可能性がある
緩和ケア病棟は、病院によってカラーが全然違います。
そのため、緩和ケア病棟への転職を検討している看護師の方は、予め「自分がやりたい看護」を明確にして求人を探すようにすると良いでしょう。
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